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神戸地方裁判所 昭和58年(行ウ)34号 判決

原告

立野武三

右訴訟代理人弁護士

井上洋一

谷戸直久

大水勇

被告

西宮財務事務所長

池本要

右訴訟代理人弁護士

池上徹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告のした別紙賦課処分目録記載の不動産取得税賦課処分(以下「本件賦課処分」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件賦課処分に至る経緯等

(一) 原告は、寝屋川市早子町一九八番二、同町一九九番二及び同町二一三番一の宅地合計七〇七・六三平方メートルにつき借地権を有し、同地上に木造瓦葺平家建居宅等合計一九六・二〇平方メートルを所有していたところ、右宅地を含む地区について、昭和五五年二月二〇日、寝屋川市を施行者とする寝屋川都市計画事業寝屋川市駅前第一種市街地再開発事業(以下「本件再開発事業」という。)の都市計画決定の公告がされた。

(二) 原告は、都市再開発法七一条一項により同法八七条の規定による権利変換を希望せず、原告の有する前記借地権及び建築物に代えて金銭の給付を希望する旨を施行者である寝屋川市に申し出、同法九一条一項により、昭和五七年七月二一日に前記借地権の消滅及び同借地権に対し権利変換により与えられるべき施設建築物の一部等(以下「権利変換による建築物等」ともいう。)が与えられないことに対する補償として同法八〇条一項により算定した補償金の給付を寝屋川市から受けた。

なお、原告の同法七一条一項に規定する申出については、施行者である寝屋川市は、租税特別措置法施行令二二条九項四、五号に該当するものとして、租税特別措置法三三条一項三号の二に該当する「やむを得ない事情」による申出と認定し、昭和五五年七月一二日開催の市街地再開発審査会の議決を得ている。

(三) 原告は、昭和五七年九月一日権利変換による建築物等に代わる代替不動産として西宮市美作町五九番地宅地四九二・五六平方メートル(以下「本件代替地」という。)を取得し、本件代替地上に建築物を建築し、被告に対し昭和五七年一〇月二一日に本件代替地の不動産取得の申告をしたところ、被告は、別紙賦課処分目録記載のとおり不動産取得税の本件賦課処分をした。

(四) 原告は、本件賦課処分につき不服であつたので、兵庫県知事に対し審査請求をしたが、同知事は昭和五八年八月三〇日付けをもつて原告の右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

2  本件賦課処分の違法性

本件において、課税標準の算定についての特例控除額(地方税法七三条の一四第八項)とは、当該与えられない施設建築物の一部等の価額、すなわち、都市再開発法七三条一項一二号の価額、若しくは、地方税法三八八条一項の固定資産評価基準によつて決定した価格に相当する価額をいうものと解すべきであり、この点を看過して本件再開発事業の施行地区内に原告が有していた建物の固定資産課税台帳登録価格七万八二〇〇円を控除して課税標準額を計算した被告の本件賦課処分は地方税法の解釈・適用を誤つた違法がある。

(一) 都市再開発法九一条一項の補償は、土地収用法により受ける損失補償とは異なり、「与えられないもの」に対する代償としての対価補償である。

すなわち、市街地再開発事業は、施行地区内の建築物及び建築敷地の整備を目的として、権利変換を基本的として行う事業であつて、施行地区内に借地権又は建築物を有する者は、都市再開発法七〇条二項によりこの権利を処分する場合又は同法七一条一項の申出により自己の有する建築物を他に移転する場合を除いて、権利変換処分により、これらの権利に対応して施設建築敷地又は、共有持分若しくは、施設建築物の一部等が与えられる。

そして、右の施設建築物の一部等が与えられることを希望しない申出が止むを得ない事情ありと認められる場合には同法九一条一項の補償金が支払われる。

右の補償は、「与えられないもの」―(ものでことではない。)―に対する補償で、権利変換されることが前提である。すなわち、与えられる施設建築物の床面積が過少となる場合(同法七九条三項)又は、施設建築物の一部等において、従前の生活又は事業を継続することが困難又は不適当とする事情あるときには、通例は、権利変換によりいわば対価的に施設建築物の一部等が与えられることとなるに拘らず、権利変換によりそれらの権利を失うこととなるのである。

そこで、右の不公平を是正しようとする公平原則から同法八〇条一項による「相当の価額」(同法七三条一項一一号、又は同項一二号)金銭給付が支払われるものである(同法九一条一項)。

(二) そして、代替不動産の取得は、右補償金により取得されるものである。

(三) そうすると、不動産取得税を賦課するに際して適用される地方税法七三条の一四第一〇項の規定は、都市再開発法による市街地再開発事業の施行地区内に宅地の借地権又は建築物を有する者が都市再開発法九一条一項の規定により、やむを得ない事情により同法七一条一項の規定の申出がなされ、それに基づき支払われる補償金を受けた不動産(これが「従前の不動産」である。)に代わる不動産を取得した場合における不動産取得税の課税標準の算定については、取得代替不動産の価格から従前の不動産の権利に対応するものとして与えられることが予定されていた施設建築物の一部等の価額を控除する特別措置であると解すべきである。

(四) したがつて、地方税法七三条の一四第一〇号にいう「当該補償金を受けた不動産」(従前の不動産)とは、与えられなかつた施設建築物の一部等(都市再開発法二条九号参照)を意味することとなる。

(五) 右のように解すべきことは、地方税法七三条の一四第九項と同条第一〇項との対比からしても明らかである。

すなわち、地方税法七三条の一四第九項は、明らかに施行地区内の宅地、借地権、建築物に対応して与えられる不動産を取得した場合における特例措置の運用について規定したもので、同条一〇項はその不動産が与えられないものに対する補償金で代替不動産を取得した場合の特例措置の適用について規定したものである。

そして、地方税法七三条の一四第九項の従前の宅地等は、特例措置を適用されているに拘らず、被告の主張によれば同条一〇項では従前の宅地等の中、宅地及び建築物は特例措置が適用され、借地権は適用できないこととなる。

これでは、公平の原則に反すると共に特例措置を設けた趣旨と矛盾すること明らかであるから、地方税法七三条の一四第一〇項の従前の不動産の解釈も同条第九項と同様に解すべきである。

(六) 更に租税特別措置法三三条一項三の二及び同法施行令二二条四項一号の規定において、都市再開発法における従前の借地権に対し同法九一条一項の規定によつて支払われた補償金で土地を取得した場合には、その土地は代替資産に該当すると定められており、税法上の取扱いの公平の原則から、譲渡所得税と不動産取得税を別異に取り扱う理由はない。

3  よつて、本件賦課処分は違法であるから、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1項の各事実は認め、同2、3項の各主張は争う。

三  被告の主張

1  地方税法七三条の一四第一〇項に規定する「従前の不動産」の意義等

(一) 同法七三条の一四第一〇項の規定は、都市再開発法による第一種市街地再開発事業の施行地区内に不動産を有する者が、同事業における権利変換を希望しないことの申出をし、当該申出に基づく補償金を受け、当該補償金を受けた不動産(以下「従前の不動産」という。)に代わる不動産を取得した場合における不動産取得税の課税標準の算定については、当該代替不動産の価格から従前の不動産の価格を控除するという特例規定である。

(二) 同項の規定は、昭和四五年の地方税法の改正により新たに追加されたもので、その趣旨は、従前の不動産に係る権利が権利変換計画によつて強制的に施行者に帰属せしめられる一方、権利者が都市再開発法七一条一項の規定により権利変換を希望しないで、前記支払いを受けた補償金をもつて従前の不動産に代わるべき不動産を取得することが、地方税法施行令三九条の二第一項で定めるやむを得ない事情があると認められる場合に課税上の特例措置を設けたものであり、これは、公共事業のために不動産を収用されて代替不動産を取得する場合における不動産取得税の特例(地方税法七三条の一四第八項)と同様の措置を講じたものということができる。

(三) しかして、同法七三条の一四第八項の規定は、公共事業の用に供するため不動産を収用されて補償金を受けた者が、当該収用された不動産の代替不動産の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については、当該代替不動産の価格から当該収用された不動産の価格を控除するという特例規定である。

(四) これらのことから、同法七三条の一四第一〇項に規定する「従前の不動産」とは、第一種市街地再開発事業の施行地区内に存していた不動産をいうものであり、これを原告に与えられないこととなつた施設建築物の一部等であるとする原告の主張は失当である。

(五) そして、そもそも、不動産とは土地及び建物を総称する(同法七三条一号)こととされていることから、原告が従前に寝屋川市内に有していた借地権及び居宅のうち、居宅についてのみ同法七三条の一四第一〇項に規定する「従前の不動産」に該当するものと認めてした本件賦課処分は適法である。

(六) なお、原告は、譲渡所得に係る所得税との関連において公平を欠く旨主張しているが、譲渡所得に係る所得税は、借地権の譲渡による所得についても課税対象としているが、不動産取得税は土地及び建物のみを課税対象とし、借地権は課税対象としていないのであり、両税のこのような制度上の差異を看過した原告の右主張は失当である。

(七) さらに、以下の理由から、特別控除の対象となる不動産(従前の不動産)が施設建築物の一部等であるとの原告の主張は成立しえない。

すなわち、施設建築物は権利変換の期日には未だに計画の段階にとどまるものであり、権利変換期日後に建物の除却が開始され、その後に当該施設建築物の建設が始まるのであるから、当該施設建築物の価格が権利変換期日に固定資産課税台帳に登録しうる余地はない。したがつて知事において登録が未だないにもかかわらず固定資産評価基準により権利変換期日における当該価格を決定することは明らかに不可能であり、そもそもこのように未だ存在しない施設建築物の評価をなしうる道理がない。

2  都市再開発法九一条一項の補償金について

原告は、右補償金が施設建築物の一部等に対して支払われる旨主張する。

しかし、同法九一条一項の規定によれば、補償金は同法八〇条の規定による「相当の価格」に対して利息を付してこれを支払う旨定め、また、同条は、権利変換計画に記載する資産の価額は評価基準日(本件においては公告日である昭和五五年二月二〇日から起算して三〇日を経過した昭和五五年三月二一日)における相当の価額とすべき旨規定している。

右評価基準日において、権利変換計画あるいは施設建築物ができ上つていないことは論をまたず、さらに、同法七一条一項の規定による権利の変換を希望しない旨の申出は、建築物を有する者にとつては建築物の価格に相当する金銭の給付か建築物の移築の希望申出であり、土地あるいは借地権を有する者にとつてはこれらの資産の価額に相当する金銭の給付を希望する旨の申出とされていることと併せ解すれば、補償金の対象が権利変換期日後に建設されることとなる施設建築物の一部等であると解する余地はない。

したがつて、同法九一条に関する原告の主張は失当である。

四  原告の反論

1  与えられない施設建築物の一部等の価額の評価について

被告は、右施設建築物は権利変換期日において計画段階にとどまるもので、その価格を固定資産課税台帳に登録する余地はない旨主張する(三1(七)参照)。

しかしながら、権利変換計画において建設省令に定めるところにより、権利変換期日に施行地区内の借地権及び建築物に係わる権利に対応して与えることとなる施設建築物の一部等の明細及びその価額が、都市再開発法七七条二項により定められている(同法七三条一項四号)のであるから、右七三条一項四号を類推して、与えられない施設建築物の一部等の価額を建設の完工を待たずに評価することも可能である。

2  都市再開発法九一条一項の補償金の対象について

(一) まず、都市再開発法八〇条一項は、権利変換することを前提とした権利変換計画の同法七三条一項三号及び一一号又は一二号の価額、すなわち本件においては、同条項一二号の権利を失い且つ、当該権利に対応して、施設建築物の一部等を与えない場合の当該失われる施行地区内の借地権及び建築物の価額の算定基準を定めたもので、当該価額は同法七〇条一項により権利変換手続開始の登記がなされることを配慮して定められた評価基準日における価額である。

(二) 次に、都市再開発法九一条一項の同法八〇条一項の規定により算定した「相当価額」とは、権利変換を前提とする権利変換計画の同法七三条一項一二号の価額で、当該価額に対応(相当)する施設建築物の一部等の価額である。

(三) 最後に、都市再開発法八七条による権利変換を希望せず代わつて金銭の給付を希望する同法七一条一項の申出に基づき施行者がなす金銭の給付は、市街地再開発事業で同法六条二項により適用外とされる買取り、先買い、収用による損失補償による金銭の給付とは異なる。それは、やむを得ない事情により権利変換を希望しない申出として、その申出に基づき施設建築物の一部等を与えずにその代償として金銭給付即ち補償金が支払われるのである。

希望の申出に対しては必ずしも補償がなされるのではなく、やむを得ない事情により施設建築物の一部等が与えられないことにより補償がなされるのであつて権利変換することが補償の前提である。

このことは、若し、権利変換を希望せず、金銭の給付を希望する申出に関する資産が権利変換の対象とならない場合には、同法七一条一項の当該資産の移転の申出によるか、又は、同法七〇条二項の施行者の承認を得て当該資産を処分することができることから明らかである。

(四) 以上により、都市再開発法九一条一項の補償金の対象は、与えられない施設建築物の一部等であるとする原告の主張は正当である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1項の各事実は当事者間に争いがない。

二地方税法七三条の一四第一〇項の「従前の不動産」の意義

1  不動産取得税の課税標準は、不動産を取得したときにおける不動産の価格とされている(地方税法七三条の一三)が、同法上の政策的理由ないし取得の事情等を考慮して、課税標準としての額については様々な特例が定められており、同法七三条の一四第一〇項もそのうちの一つである。

2  すなわち、同条項は、都市再開発法による第一種市街地再開発事業の施行区域内に不動産を有する者が、同法八七条の規定による権利変換期日における権利の変換を希望せず、自己の有する土地、借地権又は建築物に代えて金銭給付希望の申出をし(同法七一条一項)、右申出に基づき同法九一条一項の規定による補償金を受け、当該補償金を受けた不動産(従前の不動産)に代わるものと都道府県知事が認める不動産を取得した場合における当該代替不動産の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については、当該代替不動産の価格から従前の不動産の固定資産税台帳に登録された価格に相当する額を控除するという特別規定である。

そして、地方税法施行令三九条の二第一項によれば、右補償金は、市街地再開発事業の施行者が、施設建築物の構造、配置設計、用途構成、環境又は利用状況等につき、都市再開発法七一条一項の申出をした者の従前の生活又は事業を継続することを困難又は不適当とする事情があることにより同項による申出がされたと認められる場合に限るとしている。

3  このように、右特例は、本来であれば、都市再開発事業の施行にともなつて施設建築物の一部等を取得すべき権利者が、地方税法施行令三九条の二第一項に定める事情により、やむを得ず代替不動産を取得したときに認められるものであつて、その趣旨は、地方税法七三条の一四第八項と同様、市街地再開発事業のため従前の不動産にかかる権利が、権利変換計画によつて強制的に喪失させられるので、代替性の認められる限度内で不動産取得税の負担を軽減するものと解される。

4  右趣旨のほか、地方税法七三条の一四第一〇号は、当該補償金を受けた不動産を「従前の不動産」と読み替えていること、同法七三条一号によれば、不動産取得税に関する用語としての「不動産」とは、土地及び家屋を総称するものとされていることなどからすれば、同法七三条の一四第一〇項にいう「従前の不動産」とは、原告主張のように与えられないこととなつた施設建築物等を指すのではなく、第一種市街地再開発事業の施行地区内に存していた土地及び家屋を指すものであることは明らかといわなければならない。

三原告の主張について

1  原告は、地方税法七三条の一四第一〇項の「当該補償金を受けた不動産」(従前の不動産)とは、与えられなかつた施設建築物の一部等であると強く主張する。なお、都市再開発法二条によれば、「施設建築物の一部等」とは、市街地再開発事業によつて建築される建築物(施設建築物)の一部及び当該施設建築物の所有を目的とする地上権の共有持分をいう(六、九号)ものとされ、原告の右主張も同旨と解される。

2  まず、都市再開発法の解釈としても、原告の主張は、以下の理由から採用できない。

都市再開発法第三章で定められている第一種市街地再開発事業は、いわゆる権利変換、すなわち、施行地区内の宅地・建物の所有権、借地権、借家権等を当該開発事業による施設建築物敷地及び施設建築物に関する所有権等に変換することにより、市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図るものである。もつとも、右権利変換を希望しない者は、事業計画確定公告があつてから三〇日以内に、その旨申し出ることができ(都市再開発法七一条)、その場合には補償金が支払われる(同法九一条)。そして、右補償金の算定は、右三〇日を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価額等を考慮して定めた相当の価額(同法八〇条一項)に権利変換期日までの期間につき利息相当額を附して支払う(同法九一条一項)こととされ、右補償金の算定基準日において施設建築物が完成していないことは、第一種市街地再開発事業の手続上明らかである。そうすると、右補償金は、従前の土地・建物に関する権利に相応する補償ということができ、この点に関する原告の主張(とりわけ事実欄四2参照)は失当である。

3  次に、地方税法の解釈としても、原告の主張は採用できない。

まず、地方税法七三条の一四第一〇項本文によれば、従前の不動産の価格は、固定資産課税台帳に登録されているか、右登録がされていない場合には固定資産評価基準にしたがい都道府県知事が決定した価格によることが前提とされているところ、原告主張のように「従前の不動産」を与えられなかつた施設建築物の一部等であるとすれば、代替不動産を取得したときに施設建築物が完成しているかどうか必ずしも定かではなく、したがつてその価格を決定することは不可能となつてしまう。この点、原告は都市再開発法七三条一項四号を類推すればよいと主張(事実欄四1参照)するが、その根拠は定かではなく独自の見解というほかはない。さらに、固定資産課税台帳に登録されるのは土地、家屋及び償却資産に限られ、地上権等の権利価格が登録されないことは明らかであるから、従前の不動産の価格に当該施設建築物の所有を目的とする地上権の共有持分の価格を含まないことが明らかであるのに、原告の主張では右価格も含むこととなり不合理である。

次に、原告は、都市再開発事業に伴う不動産取得税の課税につき、地方税法七三条の一四第九項と同条一〇項で取扱いに差異を生じるような解釈(事実欄一2(五)参照)は、公平に反する旨主張する。

しかし、地方税法七三条の一四第九項と同条一〇項で差異を設けた理由は、前者においては従前の宅地等に対して権利変換により施設建築物の一部等が与えられる場合であるのに対し、後者においてはやむを得ず権利変換を希望せず補償金を受け、代替不動産を取得した場合に関するもので、後者が公共事業の用に供するため不動産を収用されて代替不動産を取得する場合(同条八項)と同様であることから、同条一〇項の場合には同条八項と同様の取扱により、被収用不動産ないしは従前の不動産の固定資産課税台帳に登録された価格を基準として、代替性の認められる限度内で不動産取得税の負担を軽減したことにあると解されるところ、新たな不動産を取得する態様に応じてこのような差異を設けることは、正義公平の観念に照らし到底容認できないものであるとはいえないから、原告の右主張は採用することができない。

さらに、原告が、譲渡所得税と不動産取得税とで差異を設けていると主張する点である(その趣旨は必ずしも定かではないが、借地権を収用されて代替不動産を取得した際、譲渡所得の特別控除額は借地権価格相当の補償金の全額とする旨課税の特例が定められているのに対し、不動産取得税の課税の特例として通常は借地権価格より低額な固定資産課税台帳の登録価格を控除額とするような解釈適用はできないとするもののようである。)が、そもそも譲渡所得税と不動産取得税の趣旨、目的、担税力、課税の公平等を考慮するときは、右差異をもつて直ちに地方税法七三条の一四第一〇項についての原告の主張するような解釈が正当である根拠とすることはできない。

四本件賦課処分の適法性

〈証拠〉によれば、原告が有していた従前の家屋の昭和五七年度における固定資産課税台帳に登録された価格は、七万八二〇〇円であることが認められ、また、本件代替地の評価額が二二八八万四三三〇円であることは当事者間に争いがない。したがつて、右評価額から特例控除額七万八二〇〇円を差し引いて本件代替地の不動産取得税の課税標準を算出したことは何ら違法ではない。その他、本件記録を精査しても本件賦課処分を違法とする事由は見出せないので、本件賦課処分は適法である。

五結論

よつて、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官小林一好 裁判官横山光雄)

別紙賦課処分目録

課税番号 昭和五八年度第一八号

納税告知日 昭和五八年四月九日

指定納期限 昭和五八年四月三〇日

指定不動産所在地 西宮市美作町五九番地

不動産面積 宅地、四九二・五六平方メートル

取得方法 売買

取得期日 昭和五七年九月一日

取 得 者 原告

評 価 額 二二八八万四三三〇円

特別控除額 七万八二〇〇円

課税標準額 二二八〇万六〇〇〇円

税   率 一〇〇分の四

税   額 九一万二二四〇円

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